「布団に入っても、なかなか寝つけない」「睡眠用BGMって、本当に効果があるの?」。
寝つきの悩みは多くの人が経験するものです。動画サイトや音楽アプリには「睡眠用BGM」「睡眠導入音楽」がたくさんありますが、どんな音を、どう流せばいいのかは意外と知られていません。
この記事では、睡眠用BGMや音楽、ホワイトノイズ・自然音にどんな効果があるのかを、複数の研究をまとめたシステマティックレビューなど、査読付きの論文をもとに解説します。あわせて、入眠(寝つき)とは何か、眠りにつくまでに体と頭の中で何が起きているのかも説明します。
この記事は、睡眠アプリ「Nemurift」の運営メディアが、公的機関の資料と査読付き論文を確認して作成しています。研究の結果がはっきりしない部分は、そのまま「はっきりしない」と書いています。
結論:睡眠用BGMの効果と使い方
- 効果:寝る前に音楽を聴くと、不眠の症状がある大人の主観的な睡眠の質が改善したという研究のまとめがあります。一方で、検査で測った寝つきの時間や睡眠時間ははっきり改善しておらず、確実に寝つきを早めるとはいえません。8
- ノイズ・自然音:一晩中流して睡眠が良くなるという根拠は、まだ非常に弱いとされています。13
- 使い方:最適な曲、音量、時間、続ける期間は確立していません。使う場合は、落ち着ける曲を小さめの音量で短めに流し、眠りや耳に違和感があればやめましょう。
- 受診の目安:寝つけない状態と日中の不調が続く場合は、BGMで様子を見続けずに医療機関に相談してください。
入眠とは?眠りにつくまでに起きていること
入眠とは、目覚めている状態から眠りに入ることです。布団に入ってから眠りにつくまでの時間は入眠潜時と呼ばれます。厚生労働省の睡眠ガイドでも、入眠潜時を「就床から入眠までの時間」として説明しています。1
寝つきが悪く、なかなか眠れない状態は入眠困難と呼ばれ、不眠症の症状のひとつです。2
眠気をつくる2つのしくみ
睡眠の研究では、眠気には主に次の2つのしくみが関わると考えられています(このほか、頭や体の興奮の程度も影響します)。3
- 起きている時間の長さ:起きている時間が長くなるほど、眠りを求める力(睡眠圧)がたまっていきます。眠ると、この力は解消されます。
- 体内時計:およそ1日のリズムで、夜になると眠りやすく、朝になると目覚めやすくなるよう体を調整しています。
昼寝をしすぎた日や、休日に遅くまで寝ていた翌日に寝つきが悪くなるのは、睡眠圧が十分にたまっていなかったり、体内時計が後ろにずれていたりするためです。
頭と体が「興奮」していると寝つけない
眠気が十分にあっても、頭や体が興奮していると寝つけません。睡眠の研究では、寝る前の興奮(覚醒)を、心拍が速い・体がこわばるといった体の興奮と、考え事や心配が止まらないといった頭の興奮に分けて考えます。4
不眠の研究では、とくに寝る前の心配や考え事が、寝つきの悪さと深く関わっていると考えられています。5, 6 「眠らなきゃ」と焦ることも、かえって頭を冴えさせる原因になります。
寝つきにかかる時間は人によって違う
寝つきにかかる時間には個人差があり、年齢によっても変わります。健康な人の睡眠データをまとめた研究では、大人では年齢が上がるにつれて、寝つくまでの時間が少しずつ長くなる傾向が報告されています。7 「すぐに眠れないから異常」というわけではありません。
スムーズに入眠するための基本
睡眠用BGMを試す前に、寝つきやすくなる土台を整えておきましょう。厚生労働省の睡眠ガイドなどでは、主に次のようなことがすすめられています。1
- 朝、起きたら光を浴び、毎日なるべく同じ時刻に起きる
- 寝室は暗く、静かで、暑すぎず寒すぎない環境にする
- 寝る前のカフェイン、お酒、たばこを控える
- 寝る前はスマートフォンなどの強い光を避け、リラックスして過ごす
- 眠くなってから布団に入り、寝つけないときは一度寝床を離れる
生活習慣や寝つきが悪くなる原因は寝付きが悪い原因と生活習慣の記事で、今夜すぐできる対処法は眠れない時の対処法の記事で詳しく紹介しています。
睡眠用BGM・音楽に効果はある?研究でわかっていること
研究のまとめ:主観的な睡眠の質は改善、ただし限界も
寝る前の音楽については、比較的質の高い研究のまとめがあります。
医療研究の評価で知られるコクランのシステマティックレビュー(2022年)では、不眠の症状がある大人を対象にした13件のランダム化比較試験(参加者1,007人)がまとめられました。8 研究の多くでは、録音された音楽を1日25〜60分、3日〜3か月聴いていました。
その結果、
- 音楽を聴いたグループでは、主観的な睡眠の質(睡眠の質を尋ねる質問票「PSQI」の点数)が改善していました(根拠の確かさは「中程度」)
- **寝つくまでの時間(自己申告)**も短くなった可能性がありますが、根拠の確かさは「低い」とされました
- 一方、脳波などの検査で測った寝つきの時間や睡眠時間は、はっきりした改善が見られませんでした(3件・136人の研究)
- 音楽による有害な出来事は、報告されていませんでした(ただし、長期的な安全性を確かめた研究ではありません)
つまり、「音楽を聴くと主観的な睡眠の質は改善する可能性があるが、寝つきの時間そのものを確実に縮めるとまではいえない」というのが、現時点での慎重な読み方です。
ほかのまとめでも、似た結果が出ています。不眠症の大人を対象にした20件の研究を比べたネットワークメタ分析では、音楽を聴くことや、音楽を使ったリラクゼーションが睡眠の質の改善に役立つ可能性が示されました。9 また、10件の研究をまとめたメタ分析では、音楽の効果は聴く量が増えるほど高まる傾向があり、慢性的な睡眠の悩みでは3週間以上続けたほうがよい可能性が示されています。10
ただし、これらの研究の多くは参加者が少なく、音楽を聴く人と聴かない人をまったく同じ条件にそろえる(どちらか本人にわからないようにする)のが難しいという限界もあります。
なぜ音楽で眠りやすくなるのか
音楽が眠りを助けるしくみは、まだはっきりわかっていません。研究を整理した論文では、主に次のような説明が挙げられています。11
- まわりの音を目立たなくする(マスキング):車の音や生活音など、気になる物音を音楽が覆い隠す。研究のまとめでは、この説明は睡眠の改善を支持する結果が得られていました
- リラックスさせる:心拍や呼吸、気持ちを落ち着かせる
- 気をそらす:心配事や考え事から注意をそらす
- 心地よさ:好きな音楽を聴く楽しさで、寝る前の時間が前向きになる
なお、リラックス・気をそらす効果や、ゆっくりしたテンポに心拍が合っていくという説明については、研究の結果が一致していないとされています。11
また、651人を対象にしたオンライン調査では、62%が眠るために音楽を使うことがあると答えていました。眠るために選ばれた曲は、クラシックからロックまで人によってばらばらで、「リラックスできるから」「習慣だから」など理由もさまざまでした。12 「睡眠用」と書かれた曲でなくても、自分が落ち着ける曲であればよいのかもしれません。
ホワイトノイズ・ピンクノイズ・自然音の効果は?
雨音や波の音、ホワイトノイズやピンクノイズのような「ザーッ」という音(広い周波数を含む音)を流して眠る人もいます。
一晩中流す効果は、まだ根拠が弱い
ノイズを睡眠の助けとして使った38件の研究をまとめたシステマティックレビューでは、**連続したノイズが睡眠を良くするという根拠の質は「非常に低い」**と結論づけられました。むしろ、睡眠や聴力に悪い影響を与える可能性もあると指摘されています。13
寝つきが早くなった研究と、睡眠が悪くなった研究
一方で、効果が見られた研究もあります。健康な若い成人18人を対象に、いつもより90分早く消灯して「一時的に寝つきにくい状況」をつくった実験室の研究では、部屋全体に小さめのノイズ(約46dB)を流すと、ふだんの環境(約40dB)より、消灯から浅い睡眠(N2睡眠)に入るまでの時間が中央値で38%短くなりました。14 ただし、これは特殊な実験条件での少人数の結果で、ふだんの寝つきや不眠症の人に同じ効果があるかはわかっていません。
反対に、2026年に発表された研究では、健康な大人25人が7晩にわたって検査を受け、ピンクノイズを流した夜は、静かな夜に比べてレム睡眠が減っていました。外からの騒音にピンクノイズを重ねても睡眠の構造は良くならず、騒音対策としては耳栓のほうが効果的でした。15
まとめると、騒がしい環境で物音を目立たなくしたい場合に、ノイズや自然音が役立つ人はいるかもしれません。ただし、静かな環境でまで一晩中流し続ける必要はなさそうです。騒音が気になる場合は、耳栓や窓・カーテンの見直しも選択肢になります。
「528Hz」などの周波数やバイノーラルビートは?
「自律神経が整う周波数」「眠れるソルフェジオ周波数」などとうたう動画もありますが、特定の周波数が睡眠を良くするという、信頼できる根拠は確認できませんでした。音の効果を選ぶ基準としては、周波数の数字よりも「自分が心地よいか」「物音が気にならなくなるか」を大切にしてください。自律神経と音の関係については自律神経と眠れない夜の記事でも触れています。
睡眠用BGMの選び方と使い方
研究でわかっていることをふまえて、睡眠用BGMを使うときのポイントをまとめます。
1. 自分が「落ち着ける」と感じる曲を選ぶ
研究では、睡眠のために選ばれる曲は人によってさまざまでした。12 ゆっくりしたテンポで、急に音が大きくなったり、テンポが変わったりしない曲が無難ですが、最終的には自分が心地よいと感じるかどうかが大切です。
2. 頭の中で繰り返し流れやすい曲は避ける
曲が頭から離れなくなる現象(イヤーワーム)にも注意が必要です。ある研究では、ふだんよく音楽を聴く人ほど夜にイヤーワームを経験しやすく、それが睡眠の質の悪さと関係していました。さらに実験では、人気曲の歌詞なしバージョンを寝る前に聴いた人のほうが、歌詞ありバージョンを聴いた人よりイヤーワームが起きやすく、検査で測った睡眠の質も悪くなっていました。16
「歌詞がなければ安心」とは限りません。耳に残りやすい、ノリのいい曲やよく知っているヒット曲は、寝る前には避けたほうがよさそうです。
3. 音量は小さめにする
BGMは「聞こえるけれど気にならない」くらいの音量で十分です。WHO(世界保健機関)は、聴力を守るために、機器の音量を最大の60%以下にすることをすすめています。17 寝室の夜間の騒音についても、厚生労働省の睡眠ガイドで目安が紹介されています。1
4. タイマーで止まるようにする
一晩中音を流すことの効果ははっきりしておらず、ノイズでは睡眠の構造に影響したという研究もあります。13, 15 音を流す場合は、つけっぱなしにせず、タイマーで止まるように設定しておきましょう。
5. 時間や期間は、研究の条件を目安にしすぎない
音楽の研究では、1日25〜60分、3日〜3か月ほど聴く条件が多く使われていました。8, 10 ただし、これは研究で使われた条件で、最適な時間や続ける期間はわかっていません。また、音楽の研究条件を、ノイズや自然音にもそのまま当てはめることはできません。合うと感じる場合に、無理のない範囲で取り入れてください。
6. 動画サイトの広告・自動再生とイヤホンに注意
動画サイトの睡眠用BGMは手軽ですが、途中で広告が入って大きな音が流れたり、自動再生で別の動画が始まったりすることがあります。画面を何度も見ないよう、再生リストやタイマーを先に設定しましょう。イヤホンをつけたまま眠ると、耳が痛くなったり蒸れたりすることもあるため、できればスピーカーから小さく流すのがおすすめです。
音楽が合わない人は、ほかのリラックス法も
音楽が逆に気になって眠れないという人もいます。厚生労働省の睡眠ガイドでも、筋弛緩法、音楽やアロマなどが入眠を促すとしつつ、すべての人に効果が保証されたリラクゼーション法はないと書かれています。1 アメリカ睡眠医学会の診療ガイドラインでも、慢性不眠症に対するリラクゼーション法は「条件付き推奨」とされています。18
自分に合う方法を探すために、次のような方法も試してみてください。
- 筋弛緩法:体の各部分に力を入れてから、ふっと抜く
- ゆっくりした呼吸:吐く息を長めにして、呼吸に意識を向ける
- イメージを使って気をそらす:寝る前に考え事が止まらない人を対象にした研究では、穏やかな場面を思い浮かべるように指示されたグループは、そうでないグループより、寝つくまでの時間が短く、寝る前の考え事による苦痛も少なかったと報告されています。19
考え事が止まらない人には、関係のない単語を次々に思い浮かべる「認知シャッフル睡眠法」という方法もあります。やり方や研究の限界は認知シャッフル睡眠法の記事で詳しく解説しています。
私たちが運営するアプリ「Nemurift」では、認知シャッフル睡眠法の単語を音声で読み上げ、焚き火やさざなみ、雨音などの環境音を重ねて流すことができます。タイマーで自動停止するので、再生したら画面を閉じて目をつぶるだけです。アプリは無料でダウンロードでき、BGM選択、長時間タイマー、単語数・間隔の調整などはPremium(有料)の機能です。ただし、この記事で紹介した研究はNemuriftを使って行われたものではありません。ほかの睡眠アプリとの比較は睡眠アプリおすすめの記事でまとめています。
こんな時は医療機関に相談を
睡眠用BGMは、寝る前の時間を落ち着いて過ごすための工夫のひとつで、治療ではありません。次のような場合は、BGMで様子を見続けず、医療機関(睡眠外来、内科、心療内科など)に相談してください。1, 2
- 寝つけない・夜中に目が覚めるといった状態と日中の不調が、週3日以上、3か月以上続いている
- 日中の強い眠気、だるさ、集中力の低下で、仕事や家事、勉強に支障が出ている
- 大きないびきや、睡眠中に呼吸が止まっていると言われた
- 横になると足がむずむずして、じっとしていられない
- 気分の落ち込みや不安が強く、何をしても楽しめない状態が続いている
不眠症の治療には、薬だけでなく、不眠症のための認知行動療法(CBT-I)という方法もあり、ガイドラインで強く推奨されています。18
入眠と睡眠用BGMについてよくある質問
Q1. 睡眠用BGMは毎晩流しても大丈夫ですか?
研究のまとめでは、音楽を聴くことによる有害な出来事は報告されていませんでした。8 ただし、毎晩長く使い続けた場合の安全性が十分に確認されたわけではありません。使う場合は小さめの音量で短めにし、眠りや耳に違和感があればやめてください。BGMがないと眠れないと感じて不安になる場合は、BGMなしで眠る日もつくってみましょう。
Q2. 歌詞のある曲とない曲、どちらがいいですか?
一般的には、歌詞に気を取られにくい曲のほうが寝る前には向いていると考えられます。ただ、ある研究では、人気曲の歌詞なしバージョンのほうがイヤーワームが起きやすかったという結果もありました。16 歌詞の有無よりも、頭の中で繰り返し流れにくい、落ち着いた曲を選ぶことが大切です。
Q3. ホワイトノイズとピンクノイズ、どちらが睡眠にいいですか?
どちらが良いかを示す、はっきりした根拠はありません。ノイズで睡眠が良くなるという根拠自体がまだ弱く、ピンクノイズでレム睡眠が減ったという研究もあります。13, 15 使う場合は、まわりの物音が気になるときに小さな音量で短時間にとどめ、違和感があればやめましょう。
Q4. 雨音や波の音などの自然音は効果がありますか?
自然音に限った質の高い研究は多くありません。ただし、物音を目立たなくする(マスキング)効果は、音楽が眠りを助けるしくみとして、研究のまとめで支持されている説明のひとつです。11 自分が心地よいと感じる自然音を、小さめの音量で流してみるのはひとつの方法です。
Q5. 何分くらい流せばいいですか?
決まった答えはありません。研究では1日25〜60分ほど音楽を聴く条件が多く使われていましたが、8 これは研究の条件で、最適な時間として確かめられたものではありません。一晩中流す必要があるという根拠もないため、13 使う場合はタイマーで止まるようにして、自分に合う長さを探してください。
Q6. 寝る前の音楽で、逆に目が冴えてしまいます
そういう人もいます。音楽が気になってしまうなら、無理に使う必要はありません。音量をさらに下げる、テンポの遅い曲や自然音に変える、それでも合わなければ筋弛緩法や呼吸法など、別のリラックス法を試してみてください。
Q7. 何分以内に眠れれば正常ですか?
寝つくまでの時間には個人差があり、年齢によっても変わるため、「何分以内なら正常」と一律にはいえません。7 時間そのものよりも、寝つけないことで日中に困っているかどうかが大切です。寝つけない状態が続き、日中の生活に支障があるなら、医療機関に相談してください。
まとめ:睡眠用BGMは「好みの曲を、小さく、短く」
- 寝つきには、眠気(睡眠圧)、体内時計、頭と体の興奮の程度などが関わる
- 寝る前の音楽は、主観的な睡眠の質を改善する可能性がある。ただし、寝つきの時間を確実に縮めるとはいえず、個人差もある
- ホワイトノイズやピンクノイズを一晩中流す効果は、まだ根拠が弱い
- 最適な曲・音量・時間は確立していない。使うなら落ち着ける曲を小さめの音量で短めにし、合わなければやめる
- 寝つけない状態が続き、日中に支障があるなら医療機関へ
音楽はあくまで、寝る前の時間を心地よく過ごすための工夫です。「これを聴けば必ず眠れる」と考えすぎず、自分に合う方法を気楽に試してみてください。
参考文献・引用リンク
- [1] 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023(「良質な睡眠のための環境づくりについて」p.23-24、「運動、食事等の生活習慣と睡眠について」p.26-27、「睡眠障害について」p.34-35). PDF
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